東京高等裁判所 昭和61年(行ケ)19号 判決
一 請求の原因一ないし三(特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨及び本件審決理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、本件審決を取り消すべき事由の有無について判断する。
1 本願第一発明の目的、構成及び効果について
前示本願発明の要旨第1項記載のとおりの第一発明の要旨に、成立に争いのない甲第二号証の二(昭和五六年九月一九日付手続補正書による全文補正明細書・以下「本願明細書」という。)、同号証の三(昭和五八年五月一八日付手続補正書)及び同号証の四(昭和五九年二月六日付手続補正書)を総合すると、本願第一発明はジエツト織機の緯糸挿入櫛状ガイドに緯糸を挿入する方法に関する発明であるが、その目的、構成及び効果は、次のようなものと認められる。すなわち、
(一) これまでのジエツト式と称される緯糸挿入方法においては、織機の織り幅が広くなると使用される媒体流れの速度が落ち、従つて、最も遠い所では緯糸挿入状態が悪化するという欠点があり(本願明細書五頁三行ないし六行)、そのために右方法は、織幅が狭く、且つ、中程度の織幅の織機に対して使用できるに過ぎなかつた(同頁六行ないし七行)し、更に積極的に緯糸を挿入する実施態様として、無噴射ガイドエレメントの間に噴射ガイドエレメントが配置されていて、それには補助搬送媒体源と連通された補助オリフイスが設けられ(同頁一〇行ないし一三行)、この補助オリフイスによつて搬送媒体の流れが加速されるものがあつたものの、これまでに知られた積極的緯糸挿入式の実施態様においては、緯糸挿入中に、緯糸が補助緯糸挿入媒体の流れによつて、影響を受けて、緯糸がガイドエレメントの緯糸通過開口によつて形成される緯糸挿入チヤンネルの長軸と垂直方向の全断面にわたつて振動するという、好ましくない状態が通常見られ、また、その結果挿入される緯糸は緯糸脱出隙間まで来てしばしば緯糸欠陥を引き起すことがあり、この緯糸が緯糸挿入櫛状ガイドのガイドエレメントの緯糸脱出隙間を通つて逃げ出すのを防ぐために、その隙間を弾性ダイアフラムで機械的に塞ぐことが行われるが、この解決法は細番手の緯糸の場合に限られるし、そしてその構造自身が非常に複雑である(本願明細書五頁一五行ないし六頁一〇行、甲第二号証の三の二頁(6)2ロ))という欠点があつたので、本願第一発明の「緯糸挿入櫛状ガイドによる緯入れ方法は上述の欠点及び不利な点を減少することを目的とし、その目的は、挿入されている緯糸の特に前端部が、緯糸挿入櫛状ガイドのガイドエレメントの緯糸通過開口を通過して緯糸通過開口によつて形成されたチヤンネルの中を移動する際に二次的搬送媒体によつてガイドエレメントの緯糸通過開口における緯糸脱出隙間に対して反対側の領域に緯糸の先端部分を指向させることにより達成される。」(本願明細書六頁一一行ないし末行)ものであること
(二) 本願第一発明は、右の目的を達成するために特許請求の範囲第1項に記載したとおりの構成を採用したものであり、特許請求の範囲第1項には、一対となる補助ノズルの軸線及び補助ノズルから噴射させる二次的搬送媒体の交叉する位置に関して「(二次的搬送媒体の流れを………補助ノズルから噴射して、)………補助ノズルの軸線を該通過開口の脱出隙間からはるかに離れた位置で且つ挿入櫛状ガイドの軸線に平行で、一対の補助ノズルの各出口開口の中心を貫通する平面よりも下側の空間中であつて、挿入櫛状ガイドの軸線と該脱出隙間の各始点を結ぶ直線とによつて与えられる平面上で相互に交叉させる」との記載があるが、特許請求の範囲の記載のみによつては、右にいう「挿入櫛状ガイドの軸線に平行で、一対の補助ノズルの各出口開口の中心を貫通する平面」及び「脱出隙間の各始点」の意義が必ずしも明確に理解できないので、本願明細書における「発明の詳細な説明」及び図面の記述を参酌するに、発明の詳細な説明の欄には、「第4図は三対の補助ノズル10、10´を有する場合についてガイドエレメント5の要素の幾何学的配置を示しているが、この図で、二つの相対する補助ノズルの出口中心を結ぶ線で定まる平面πが前記軸線12に平行である。第4図に示す平面π π´ π´´はそれぞれ相対する補助ノズル10 10´の出口中心を結ぶ線を通る平面であり、それぞれ軸12に平行な線で示されている。」(本願明細書一一頁一一行ないし一八行)との記載があることからして、特許請求の範囲第1項にいう「挿入櫛状ガイドの軸線に平行で、一対の補助ノズルの各出口開口の中心を貫通する平面」とは、予め軸線に平行な面上にあるようにガイドエレメント5の脱出隙間9をはさみ軸線より上方に設けられた一対の補助ノズルの出口中心を結ぶ直線を含む平面、すなわち、第4図に示されたπ π´ π´´のような平面を指しているものと理解でき、また、図面の簡単な説明の欄には、第1図及び第3図にみられる符号17について緯糸脱出隙間の「端部の中心点」(本願明細書一五頁四行)と説明され、かつ特許請求の範囲第2項にも、「櫛状ガイド(1)の緯糸脱出隙間(9)の各始端の中心点(17)」とあることに徴して、特許請求の範囲第1項にいう「脱出隙間の各始点」とは、第1図と第3図に符号17で示された緯糸脱出隙間9の各始端の中心点17をいうものと理解するのが相当である(第4図に符号17を示す記載はないが、その位置は右に述べたところと同じである。)。本願第一発明の構成を右のように理解すると、本願第一発明は、補助ノズルから二次的搬送媒体を前方下方で交叉するように噴射させ、その交叉点を第4図に示されたごとく平面π π´ π´´の下側であり、かつ挿入櫛状ガイドの軸線と緯糸脱出隙間の各始点を結ぶ直線とを含む平面上に位置させたところに構成上の特徴があるものと認められる。
(三) そして、本願第一発明は、右のような構成を採用したことによつて、「搬送媒体の二次的流れが加速し、かつ確実に緯糸先端部を方向付けし、それによつて緯糸挿入の速度は一様でありそして複数の緯糸挿入櫛状ガイドの緯糸脱出隙間の存在による悪影響が除去される」(本願明細書九頁二行ないし六行・甲第二号証の三の二頁及び三頁)ので、「特に織幅の広いジエツト織機に効果的に応用される。」(本願明細書一四頁一〇行ないし一一行)という基本的な効果を奏し、これを緯糸挿入の際の挿入された緯糸の動作態様における具体的な作用効果としてみると、本願第一発明は、<1>「挿入された緯糸14の先の部分にループが発生すれば二次的な搬送媒体の流れは、このループを解消し、直線状とする。」(本願明細書一三頁一〇行ないし一二行)、<2>「二次的な搬送媒体の効果が挿入された緯糸14の先の部分に集中されれば、緯糸の先端部分は引つ張られ、従つて緯糸14は選ばれた条件で杼口7の間を通過することができる。」(同一四頁一行ないし五行・甲第二号証の四の二頁)、<3>「走行線に直角方向で軸線(12)の全周方向のぶれを生ずることがなく、走行中の緯糸が緯糸脱出隙間からはみ出る事故の生ずるおそれがない。」(甲第二号証の四の二頁一五行ないし一八行)、<4>「走行緯糸を軸線(12)に対する緯糸脱出隙間の反対側で案内走行させることが出来る。」(前同三頁四行ないし五行)、<5>「緯糸に対する補助ノズルからの二次的搬送媒体流の付加作用力は一次搬送媒体流に対する円滑な補足が可能とな」(前同三頁七行ないし九行)るなどという具体的な作用効果を奏するものであることが認められる。
2 取消事由1について
成立に争いのない甲第四号証(特開昭四七―七五七六号公開公報・優先権主張日前に日本国内において頒布された公開特許公報であることは、原告の明らかに争わないところである。)によれば、第二引用例に記載された「ひを使用しない織機のよこ糸通糸方法」は、案内櫛を用い、かつ二次搬送圧力流体を噴射する補助ノズルを備えた従来の空気式緯糸挿入装置における「よこ糸がひ道を通つて前進する時に波形となるのを避け得ず、したがつてたて糸または案内櫛の板によつて捕捉されると言う欠点」(第二引用例の明細書六頁一二行ないし一五行)を「軽減し、かつ駆動力としてよこ糸に働く力の効果を該よこ糸の前方部分において最大とすると共に、その後方部分に向つて漸次減少せしめ、それによつて通糸が行われる時によこ糸が真直ぐな状態で引かれるようにすること」(同六頁下から二行ないし七頁五行)を目的としたものであり、右の目的を達成するために、本件審決認定のとおり「案内溝11を有する案内櫛9と、案内櫛9に沿つて配置され、案内溝11の中に斜めに開口したノズル14を備えたジエツトルームにおいて、前記ノズルから二次搬送流体を噴射し、一時搬送流体によつて通糸されるよこ糸の前方部分がひ道を通つて運動する時に、二次搬送流体によつて前記よこ糸の前方部分をその運動方向と実質的に平行な方向に移動させるようにした」構成(第二引用例記載のよこ糸通糸方法が、このような構成であることは、原告も認めるところである。)を採用したこと、すなわち、補助ノズルから案内櫛内に斜前方方向に二次搬送加圧流体をリレー式に噴出し、二次搬送加圧流体の最大牽引力をよこ糸の前方部分に集中するようにし、よこ糸の前方部分をその運動方向と実質的に平行方向に移動させるようにした方法であることが認められる。そして、前掲甲第四号証によれば、右のような構成を採用したことによつて第二引用例記載のよこ糸通糸方法は、作用効果(第二引用例の明細書一二頁一三行ないし一三頁一二行)として、<1>よこ糸が通糸される時に、よこ糸がその前方部分によつて牽引され、したがつて輪や波形を呈することなく、かつその前方部分がたて糸または案内櫛によつて捕捉されるおそれがないこと、<2>よこ糸に対する二次搬送加圧流体の駆動効果が、よこ糸がひ道を通つて運動する全時間に亘つて継続するために広い幅に亘つてよこ糸を通糸することができること及び<3>通糸幅及び通糸速度が大となるために織機の生産効率は増加し、また二次流体の必要量を少なくすることができることなどを達成し得たことが認められる。右の目的及び作用効果の記載<1>において、「よこ糸がたて糸に捕捉される」ということは、通糸に当たつて案内櫛内を飛走するよこ糸の前方部分あるいは波形となつた部分が、案内櫛の開口から脱出してたて糸に捕捉されることをも含むものであることは、当業者が容易に了解し得ることであるから、第二引用例は、通糸時によこ糸が案内櫛の開口から脱出することを防ぐということをも技術的課題とした発明であると認められ、したがつて、よこ糸の案内櫛開口(本願第一発明における「緯糸脱出隙間」)からの脱出を防止しようとすることを技術的課題とし、これを解決した点においては、本願第一発明との間に差異はない。確かに、本件審決が指摘し、かつ原告も言及しているごとく、第二引用例にはよこ糸がひ道を通つて通糸される際によこ糸の前方部分が一次搬送圧力流体の軸線に対してどのような位置関係において案内されるのかについての明確な記載はないが、前掲甲第四号証によれば、第二引用例には、「本発明においては、一次装置によつて通糸されたよこ糸の前方部分がひ道を通つて移動する間に二次搬送圧力流体によつて引継がれ、該二次搬送圧力流体が次々に制御され、かつひ道を通るよこ糸の運動方向と実質的に平行に導かれるようになつている。」(第二引用例の明細書七頁五行ないし一〇行)、「よこ糸26は最後のノズルによつて案内櫛9内の案内溝11の端部に達するまで、二次搬送加圧流体の実質的に縦方向の流動によつて一つのノズル14から次のノズルに次々に引渡される。」(同明細書一〇頁末から一一頁四行)及び「ノズル14から発出する二次搬送加圧流体の流動波長がよこ糸26の前方部分の速度と調和し、かつ前記よこ糸26の前方部分だけが二次搬送加圧流体によつて囲繞されるようになつている。それによつて二次搬送加圧流体の最大牽引力はよこ糸26の前方部分に集中し、したがつて該よこ糸は通糸の行われる間その前方部分によつて牽引され、ひ道13を通つて真つ直ぐに走る。」(同明細書一一頁八行ないし一五行)との記載のあることが認められる。これらの記載内容と実施例である第1図に図示された構成及びこれについての「前記板10は連続溝11を形成し、この溝は板の間隔だけによつて中断されている。前記溝には前記案内櫛9がひ道に入つた時によこ糸12が通され、この通糸はおさがまち1が前方死中心から後方死中心に移動した時に行われる。案内櫛9に沿つて該案内櫛とおさ7との間の空隙にノズル14が位置し、このノズルは案内櫛9内の案内溝11の中に斜めに位置決めされている。」(同明細書七頁下から三行ないし八頁六行)との説明を総合すると、まず、第二引用例記載の通糸方法においてはよこ糸の前方部分は、少なくともその運動方向、すなわち一次搬送加圧流体の軸線上で案内されていないことは明らかというべきであり、結局、よこ糸の前方部分がこの軸線に対してどういう位置関係において案内溝内を案内されているかを知るにはよこ糸の前方部分に作用する力関係、特に二次搬送加圧流体の作用を検討することが必要である。なぜなら、成立に争いのない乙第一号証(本願の優先権主張日以前の刊行物である昭和三九年一〇月三〇日財団法人日本繊維機械学会発行「革新織機」一四五頁ないし一五一頁、一八〇頁ないし一八二頁)及び二次搬送加圧流体の作用に関する前認定のとおりの記載内容に照らしても、一次搬送加圧流体は、高圧で噴出されてもノズルより少し離れると風速が著しく低下するので、一次搬送加圧流体の風速が糸速より低下した時点からは、補助ノズルから噴出される二次搬送加圧流体が専らよこ糸の前方部分に推進力を付与し、案内溝内を牽引して飛走させるものであることが明らかであり、よこ糸の飛走経路を決定する最も基本的な力は二次搬送加圧流体の作用力であるからである。そして、前認定のとおり第二引用例記載のよこ糸通糸方法においては、補助ノズルから案内溝内に斜前方方向に二次搬送加圧流体をリレー式に噴出し、二次搬送加圧流体の最大牽引力をよこ糸の前方部分に集中するようにして、よこ糸の前方部分をよこ糸の運動方向と実質的に平行方向に移動させる構成が採られているので、よこ糸の前方部分には、軸線に直交して設けられた複数の案内櫛で形成された案内溝の内側方向への分力が作用することが明らかである。他方、案内櫛の開口側に作用する分力としては、二次搬送加圧流体が案内櫛の内面で跳ね返ることによつて生じる反射流による分力や一次搬送加圧流体の案内櫛の開口側への放散による分力が考えられるが、右の反射流の作用が補助ノズルから噴出される二次搬送加圧流体の分力より遥かに小さいことは当然のことであり、また前叙のとおり補助ノズルから二次搬送加圧流体が噴出される時点においては一次搬送加圧流体自体の推進力は既に低下しているために、一次搬送流体の開口側への放散による分力は極めて小さいことも明らかである。このようにみてくると、結局、よこ糸の前方部分には、補助ノズルから噴出される二次搬送加圧流体の基本的な作用として、案内溝の内側方向への二次搬送加圧流体の分力が作用するものと認められるから、よこ糸の前方部分が飛走する経路は軸線より案内溝の内側にずれるものと認めることができる。したがつて、本件審決が、第二引用例記載の方法について「二次搬送流体が案内溝の外側から一次搬送流体の軸線に斜めに噴射されているのであるから、よこ糸の前方部分は、一次搬送流体の軸線に対して案内溝11の内側に位置する領域内で案内されるものと認められる。」とした認定には何ら誤りがないから、この点の原告の主張は採用の限りでない。
3 取消事由2について
第一引用例(特開昭四九―四七六六一号公開特許公報)(本出願前に日本国内において頒布された刊行物であることは、原告の明らかに争わないところである。)に本件審決認定のとおり「よこ糸ピツキングオリフイス4を設けた複数のセクシヨン部材1、2を整列形成したよこ入れチヤネルを備え、該よこ入れチヤネルによこ糸搬送流体によりよこ入れをするジエツトルームにおいて、上記セクシヨン部材の複数個を追加流体噴通セクシヨン部材2とし、該セクシヨン部材2のオリフイス4の円周上に少なくとも二個の追加流体噴通セグメント5を設け、該セグメント5より追加の流体を、よこ糸搬送流体の本流方向Sに収れんするように噴射して本流と合流させよこ糸を案内するようにしたよこ入れ方法」が記載されており、本願第一発明と第一引用例記載の方法とは、「(補助ノズルの)軸線が前記通過開口の脱出隙間からはるかに離れた位置で且つ櫛状ガイドの軸線と該脱出隙間の各始点を結ぶ直線とによつて与えられる平面上で交叉させた補助ノズルから二次的搬送媒体を噴射して、緯糸の特に前端部分を櫛状ガイドに沿つて案内するようにした緯糸を挿入する方法である点」で基本的に一致していること、したがつて、本願第一発明が右第一引用例記載の方法と相違する点は、本件審決の認定のとおり「補助ノズルが緯糸脱出隙間に近接する緯糸通過開口周囲で配置され、その軸線を櫛状ガイドの軸線に平行で、一対の補助ノズルの各出口開口の中心を貫通する平面よりも下側の空間中で交叉させ、二次的搬送媒体の流れによつて、緯糸の特に前端部分を櫛状ガイドの軸線に対して緯糸脱出隙間の反対側に位置する領域内で案内するようにしている点」のみであることは、いずれも当事者間に争いがない。ところで、原告は、右の相違点について「上記相違点は、第二引用例に開示された技術事項から当業者が容易に推考し得るものである。」とした本件審決の判断の誤りを主張するので、この点について検討する。
第二引用例には、前項で認定したとおり、本願第一発明の技術的課題と共通する「緯糸の脱出隙間からの逃げ出し」を防止することを解決すべき課題の一つとして二次搬送流体を一次搬送流体の軸線に斜めに噴射することによつて、よこ糸の前方部分を一次搬送流体の軸線に対して案内溝の内側に位置する領域内で案内する構成が開示されており、また本願第一発明のような閉環状の櫛状ガイド内でよこ糸を軸線上で飛走させるためには、軸線を含む平面であれば、いかなる方向に延びる平面でも、その平面の両側で、二次搬送流体によるよこ糸に対する作用は均等でなければならない(そうでないと、よこ糸は軸線を含む平面から離れてしまう。)から、よこ糸の前端部分を、軸線に対して緯糸脱出隙間の反対側の領域内に位置するようにするためには、二次搬送流体を前方下方に噴射し、かつ軸線と脱出隙間を含む平面の両側で均等に作用するようにしなければならないことは、第一引用例及び第二引用例の記述によつても当業者にとつて明らかなところである。したがつて、第一引用例記載の方法に第二引用例に開示された技術手段を適用して、一対の補助ノズルを備える本願第一発明において、「緯糸脱出隙間に対して反対側の領域に緯糸の先端を指向させるために」右の一対となる補助ノズルから二次搬送流体を前方下方で交叉するように噴出させ、その交叉点を櫛状ガイドの軸線と各ガイド部材の脱出隙間の各始点の中心点を結ぶ直線とを含む平面上にもつてくることによりよこ糸の前端部分に均等に二次搬送流体を作用させるように構成することは、当業者が極めて容易に実施し得るものというほかない。この点、原告は、第一引用例記載の方法が閉環型櫛部材を用いているのに対して、第二引用例記載のよこ糸通糸方法においては開環型櫛部材が用いられているところから、閉環型櫛部材と開環型櫛部材との作用面での違いを強調して第一引用例と第二引用例に記載された両技術を結合併用することの予測困難性と本願第一発明の奏する作用効果の顕著性を主張する。しかしながら、第二引用例記載の案内櫛は、開環型のものである点で、本願第一発明や第一引用例記載の閉環型のものとは相違しているが、いずれもエアージエツト織機における緯糸案内部材として従来より周知のものであつて(成立に争いのない乙第一号証一四九頁)、技術手段として同一の範囲にあるものであり、かつそれぞれの発明の技術的課題についてみても、本願第一発明や第一引用例記載のもののような閉環型櫛部材を用いるタイプにおいても、緯入れに当たつて、緯糸が閉環型案内櫛の緯糸脱出隙間を通つて逃げ出すことを防ぐことが一般的に認識された技術的課題であることは本願明細書の記載に照らして明らかであるから、これと共通した技術的課題を解決するものとして第二引用例に開示された開環型櫛部材における技術手段を、第一引用例記載の方法において用いられる閉環型部材に適用することは、当業者が容易に想到し得ることといわざるを得ない。更に、本願第一発明の奏する作用効果(前1項(三)における認定)についてみても、その基本的な効果(二次搬送流体による加速と緯糸の前端部の確実な方向付けによつて緯糸脱出隙間の存在による悪影響を除去し、織幅の広いジエツト織機にも応用できること)並びに緯糸の挿入に際しての具体的な動作面での作用効果のうち、前1項(三)で認定した<1>ないし<4>の事項は、第一引用例記載の方法において第二引用例に開示された開環型櫛部材についての技術手段を適用することによつて当然予期されることであり、また、右同<5>の事項は設計に際して当業者が随意に選定できる程度のこととみざるを得ない。したがつて、本願第一発明の奏する作用効果は、第一引用例及び第二引用例の記載内容に照らして、格別に顕著なものとは認められない。そうすると、本願第一発明と第一引用例記載の方法との相違点についての本件審決の判断は正当であり、何ら誤りはないから、この点の原告の主張は、いずれも失当である。
4 右のとおりであるから、本件審決の認定判断は、正当であつて、本件審決には原告主張のような違法の点はない。
三 以上のとおりであるから、本件審決が違法であることを理由にその取消しを求める原告の本訴請求は理由がないので、これを棄却することとする。
〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。
1 緯糸脱出隙間を有する緯糸通過開口が設けられた複数のガイドエレメントを整列して形成した櫛状ガイドの中に緯糸が一次的搬送媒体によつて挿入され、これらガイドエレメントの少なくとも一つに設けられた少なくとも二つの補助ノズルから噴射する二次的搬送媒体によつて、前記緯糸通過口を通過する緯糸を加速するジエツト織機の緯糸挿入櫛状ガイドに緯糸を挿入する方法に於て、
二次的搬送媒体の流れを挿入緯糸櫛状ガイドの緯糸脱出隙間に近接する緯糸通過開口周囲で該隙間の一側上に配置した補助ノズルから噴射して、緯糸の特に前端部分を、挿入櫛状ガイドの緯糸通過開口を通る間、二次的搬送媒体の流れによつて櫛状ガイドの軸線に対して緯糸隙間の反対側に位置する領域内で案内し、補助ノズルの軸線を該通過開口の脱出隙間からはるかに離れた位置で且つ挿入櫛状ガイドの軸線に平行で、一対の補助ノズルの各出口開口の中心を貫通する平面よりも下側の空間中であつて、挿入櫛状ガイドの軸線と該脱出隙間の各始点を結ぶ直線とによつて与えられる平面上で相互に交叉させることを特徴とするジエツト織機の緯糸挿入ガイドに緯糸を挿入する方法。
2 緯糸脱出隙間を有する緯糸通過開口が設けられた複数の平板ガイドエレメントの組合せによつて形成され、該平板ガイドエレメント間に少なくとも一個の噴射ガイドエレメントを含んでおり、噴射ガイドエレメントが緯糸挿入方向に向いた二次的搬送媒体流の出口である補助ノズルを少なくとも二つ有しているジエツト織機の緯糸挿入櫛状ガイドに於て、補助ノズル(10、10´)を噴射ガイドエレメントの緯糸通過開口(8)周囲の部分で且つ緯糸脱出隙間(9)に近接した領域のそれぞれ隙間(9)の一側面上に設け、そして補助ノズル(10、10´)の軸線(15、15´)は、緯糸挿入櫛状ガイド(1)の軸線(12)に平行で且つ各補助ノズル(10、10´)の出口開口の中心を通る平面(π)の下側の空間中であつて、更に挿入櫛状ガイド(1)の軸線(12)と挿入櫛状ガイド(1)の脱出隙間(9)の各始端の中心点(17)を結ぶ直線(18)とによつて与えられる平面(p)上に於て、挿入櫛状ガイド(1)の緯糸脱出隙間(9)からはるかに離れた位置で相互に交叉し、そして少なくとも補助ノズル(10、10´)の軸線の平面(p)への垂直な投影が挿入櫛状ガイド(1)の軸線(12)に対して5°乃至30°の範囲内の角度となることを特徴とするジエツト織機の緯糸挿入櫛状ガイド。